上昌広医師の言説を批判する その1

はじめに/概要

 本日(2016/04/07)の週間文春に『「子宮頸がんワクチン」少女を泣かせたのは誰だ』との記事が掲載。「誰」の一人が、私の元友人で生涯にわたる恩人である上昌広医師(元東大医科研特任准教授)。
 先週(2016/3/31)の女性セブンには『子宮頸がんワンチンは誰を幸せにしたのか?』という記事掲載。この記事でも上昌広君の言動が問題視されており、私のコメント(医師としての倫理違反だ。医師法が規定する医者としてあるまじき行為に彼の言動は値する)が掲載されました。
 上君は2008年に、私を「仲間」に入れて下さり、(私の認識では)「友人」となりました。日本国の医療をよくしたいとの気持ちで共通する「同志」でもありました。上君が私に注目した由縁は、2008年に私が開始したリハビリ棄民反対の行政訴訟(2件)で、訴訟開始の直後に彼から連絡があり、大いなるご支援を頂きました。上君は有力な新聞記者とか週刊誌の記者などを紹介して下さり、彼のおかげでリハビリ棄民政策反対運動は大いに盛り上がり、新聞、週刊誌、テレビで大きくとりあげられました。
 2010年、私はたまたま慢性疲労症候群(筋痛性脳脊髄炎)[以下、CFS/ME]の患者と出会い、幾十にもわたる苦境を知ることになりました。医者の多くは病気として認めないどころか、家族すら「詐病」とみなすことがしばしばで、専門医などほとんどいない。医療界全体として、病名が認知されてないし、治療法も無い。まともに歩くことすらできなくて、仕事を辞めざるを得ない患者は、身体障害者として認定されるべきなのに、障害者認定の種類を書いてくれる医者がほとんど皆無。言葉の真の意味で難病なのに、厚労省が定める難病のリストにないために、研究は進んでないし、医療費の助成や生活支援も無い。こんなような患者さんの苦境を、私は真っ先に上君に知らせました。上先生は、直ちに支援を、それこそ爆発的な情熱で開始して下さりました。彼が運営するMRIC(医療ガバナンス研究会)のメーリングリストに、CFS/MEの患者会代表の篠原さんの訴えを幾度も掲載して下さった。それだけでなく、日本の医療界で最も優れた医学者を紹介してくれたり、シンポジウムの開催に協力してくれたり。
 上君は私のリハビリ棄民反対運動の価値を認識したからこそ応援して下さったし、CFS/ME患者の苦境を深刻に感じたから支援してくれたのでした。
 その上先生が、子宮頸がんワクチン接種後の女子達の健康被害に関しては、「慎重の原則」および「予防の原則」という医者としての基本姿勢を逸脱する言動をしており、患者とご家族の活動を人間としてはもちろん医者としての倫理に違反するような「表現」で非難しているのです。
 子宮頸がんワクチン接種後の女子達とCFS/ME患者とで共通する事柄を列挙します。

  • 症状(自覚および他覚)と患者の自己認識
    • 高次脳機能障害: 記憶する能力低下、記憶してたことの想起能力低下、思考速度低下等--頭痛、関節痛、筋肉痛などの痛み
    • 圧倒的なスタミナ不足: 軽度の運動すら困難。運動後の疲労感が数日継続したり
    • 過敏症状: 光、音、化学物質、薬
    • 不登校: どちらの患者も学校にいきたいが症状のために行けない。いじめとかの原因で学校に行きたくない不登校とは全く違う。
  • 医学的検査
    • ある部位の脳血流低下
    • 全員ではないが、自己抗体の存在
    • MRI/SPECT等による脳内炎症の存在
  • 医療界と社会の反応
    • 患者を診察した医師は精神疾患とか心因反応とかみなす傾向。このことが患者を傷つける
    • たまたま患者を診察した医師の中でごく少数が、これは本物の病気だと疑い、患者さんを複数観察しての結果を所属する学会で報告したり、論文を執筆する。気付いた医師による学会発表や論文は、当初はあまり注目を集めない、ゆっくりと医者達の間に存在が知られていき、だんだんと研究する医師が増えていく
    • 言葉の真の意味での専門医が不在であり、既に存在する諸学会は当該専門領域と見なさないために、医師の学会としての研究が進んでいく
    • 医療界の反応があまりにも鈍いため、患者と家族が病状の深刻さをジャーナリストや地方and/or中央の議員に訴え、報道人と議員達が取り上げる。医療界における認知よりも、報道や議会での問題提起による社会的な認知が先行する傾向。
  • 地球全体(諸国)での状況
    • postHPVVもME/CFSも、米国、イギリス、フランス、デンマーク、日本などの諸国において、少なくとも患者を診察している医師が存在を認識している。諸国において二つの病気は「症候群」という症状の組み合わせとして認識されており、

 子宮頸がんワクチン接種後の女子達(以下、postHPVV)とME/CFSで異なる点

  • postHPVVの場合は、発病の契機が子宮頸がんワクチン接種と明確であるが、ME/CFS患者の場合は風邪症状が多いものの、きっかけが全く不明なことが多い。つまり、原因に関して、前者は確からしい事実が推定されるが、後者の患者さんは全然わからない
  • postHPVV患者においては、手足がばたばたと動く不随意運動がしばしばみられるが、ME/CFSではみられない
  • postHPVV患者の場合、家族は詐病とみなして患者を非難するような事例はほとんど全くないが、CFS/MEの場合は家族すら詐病みたいにみてしまうことが少なくない。最終的にはME/CFS患者の症状は病気によるものと家族は認めるのではあるが。
  • 地球全体(諸国)での状況: ME/CFSは米国のCDCが20世紀後半に認識し、カナダ、米国、英国等では研究が進んでおり、公的機関は病態解明や治療について前向きであるが、postHPVV患者に関しては、日本、米国、カナダ、イギリスなどの厚労省のごとき公的機関は、副反応を否定する傾向が強い
  • ME/CFSという「原因不明」の病気について社会的認知と原因究明や治療方法確立を求める患者・家族組織の「社会運動」について、患者を診療してない医師が批判する事例は私の知る限り皆無である。しかしながら、postHPVV患者と家族の「社会運動」を患者を診てない医師達が非難する事例が極めて多い
  • ME/CFSは「原因不明」なので患者・家族団体は営利企業に責任を求めることはないが、postHPVV患者・家族の団体は、当然のことながら子宮頸がんワクチンを製造・販売する営利企業を非難する。子宮頸がんワクチンを製造・販売する営利企業は巨大な世界企業なので資金力豊富であり、政治献金、報道機関への広告、医師への資金援助、官僚の講演への報酬や天下りという四種類の買収により、副作用は微々たるものとの「営業努力」をする。ME/CFSの患者団体は超国家企業群の利益を侵害しないが、postHPVVの患者団体は直接に企業の利益にとっての脅威となる

上昌広君の最新の言説について

「子宮頸がんワクチン訴訟」で明らかになった「情報」と「制度」の不足 2016/04/07 http://www.fsight.jp/articles/-/41084

これについてです。

上君の「問題」認識そのものが論外だと思う

 訴訟することを聞いて「暗澹たる気持ち」になったと。実は私もそうです。しかしながら暗澹たる気持ちの理由は上君と私では正反対です。
 彼は「なぜなら、訴訟が問題解決に有効とは思えないからだ」と。彼の言説を読んで誰もが理解すると思えるのは、「問題」の定義。上先生が言うところの問題とは「HPVワクチン接種後の症状のほとんどはワクチンによるものではないのに、家族が騒いで、マスコミがそれに同調し、結果として中央政府がワクチンの"積極的な推奨"を中止した」という想定。この想定(仮説)における「問題」の定義がそもそも事実による根拠を欠如しています。彼はワクチン接種が症状の原因ではないだろうとの根拠を彼自身の観察で示すことが全くできてません。WHOとか、あれこれの「権威」機関の主張を「根拠」として提示してはいますが、医者というものは、自ら観察してそのことを学会で発表したり、論文にして「根拠」を示すのが当然の姿勢。上君は私の知る限り、postHPVVの患者を唯の一人も診療していません。HPVワクチンについての論文とかWHOの勧告とか、そんなものは私も見たし、インターネットで誰でも簡単に読めます。上君は、postHPVVの患者を唯の一人も診療していないのですから、彼の言うところの「副反応はほとんどない」との言説には、彼自身の経験による根拠は皆無なのです。自らの見解に合致する論文ばかり読んだために、そんな主張をするのか、それともワクチン製造・販売会社から買収されているのか? 私にはわかりません。大切なことは医者に求められる「慎重の原則」だと思う。薬とかワクチンに関しては「疑わしきは控える」こと。上君は「慎重の原則」を遵守していないと思う。
 さて、彼が主張するところの「問題」は「朝日新聞などのマスコミが過剰反応」したということにつきます。これか彼にとっての問題。訴訟により、「マスコミの過剰反応」という「問題」が解決されるとは、私にする思えません。私、澤田石は過剰反応とは全くみてません。当然の反応であり、有り難いことと感謝してます。
 訴訟がこれから全国の諸裁判所で始まることにより、ますますマスコミは注目することとなり、地方あるいは中央の議員も問題として取り上げることが多くなることは確実です。つまり、上先生の言う「マスコミの過剰反応」という「問題」が解決されないどころか、彼の言うところの「マスコミの過剰反応」はますます強くなることは確実。
 「マスコミの過剰反応」という上君の見解は、postHPVV患者の症状が基本的に副反応によるものではないとの「前提」が真であって初めて成立します。しかしながら、上君は副反応ではないとの根拠を彼自身の診療経験から示すことは全くできない。患者を診てないどころか、患者の父母との対話すらしてないから。WHOとかの「権威」を借りてHPVワクチンは「安全」だと提唱する上君の姿勢は、2008年に澤田石(私)が初めて厚労省によるリハビリ棄民政策反対への支援とは正反対なのです。上先生は、当時の舛添厚労大臣と懇意で、医者が足りない事実を舛添さんに認めてもらい、厚労省の官僚や日本医師会という「権威」と堂々と敵対しました。上君は正しいと信じるならば堂々と主張して、可能な限り影響力を発揮して、日本国の医療体制を改善したい、患者さんのために医者を増やしたいと運動しました。そのような運動はおおきな流れとなり、医学部の定員増加という現実の成果として結実しました。澤田石(私)が始めたリハビリ棄民政策反対運動に関しても、上君はその意義を認めて、絶大なる支援をしてくれました。上先生が澤田石の運動を応援した時、なんと厚労大臣は舛添さんであり、私の行政訴訟の「被告人」は舛添さんでした。舛添さんと極めて親しい上先生が、なんと、澤田石の訴訟を大応援して下さった。
 そんな上君が、子宮頸がんワクチン接種後の患者さんに関しては、「マスコミの過剰反応」との言説を展開している。実に悲しい。2015年6月頃から、postHPVV問題の深刻さを改めて認識した私は、上君に幾度もメールで訴えました。

  • 患者さん、その家族と直接に対話して欲しい
  • 池田修一医師ら患者を実際に診療している医師の報告を真剣に読んで欲しい
  • ME/CFS患者とpostHPVV患者は、症状の大部分が共通しており、病態生理的には脳内の炎症があると考えられる。前者は企業の利益とは関係ないが、後者は営利企業の利益にダイレクトに関係する。上先生はGSK/MSDから直接・間接に資金援助を受けてないと思いたいが、そうかもしれないとの疑念は払拭できない。もしも金をもらっており、契約しているとしても、reality bites you (事実があなたを噛み砕く)なので、医師として当たり前の言動に戻ってほしい。私はあなたに恩義があるからこそ、訴える
上君の"確立している「国際的コンセンサス」"について

 彼曰く「HPVワクチンの安全性については、世界的なコンセンサスが既に確立している」と。これは事実です。しかしながら、上君が確立していると「表現」する根拠は、第一にWHO、そして米国、イギリス、フランス、日本などの諸国における公的機関(例えば日本なら厚労省)、それから国際規模の諸学会、最後に諸国の関連する諸学会の「公式見解」にすぎません。上君は権威をそれ自体として認めることなく、現実世界 real world における諸事実を重視する人であります、ありました。権威筋がどう主張しようが、現実における疑問と問題を直視する姿勢が昔の上先生にはあり、上君は自らの脳で考えていたと思う。
 現実世界において苦境に陥っている患者さんを、澤田石(私)とかいろんな人が上先生に紹介しました。上君は、そんなときに、速やかに「わかりました。東大医科研の研究室を尋ねて下さい。話してみます」と。実際に、上先生はME/CFSはもとより様々な苦境に陥っている患者さんと直接に対話をされて、ほとんどの事例において、彼は絶大なる応援を直ちに開始されました。日本国の医学会で病気として認識されてないME/CFS患者に対する上先生の絶大な応援。この一事だけでも私は上先生には生涯感謝の気持ちを抱き続けます。このような私が、上先生を批判・非難する言説を展開することは実に心苦しいことではありますが、そうしないことができないのです。
 上先生、澤田石(私)は、postHPVVの被害者会の方々と既につながってます。どうでしょう、患者と家族のひと組でもいいので面談してみては。お願いします。
 「国際的コンセンサス」なるものの存在を私は認めますが、現実に米国、イギリス、アイスランドデンマーク、インド、フランス、日本などの諸国でHPVワクチン接種後に、共通する症候群を呈している女子が多発してます。諸国で共通する症候群の存在を否定する根拠を、上君は持っていますか。WHOや諸国の諸学会の主張とか、HPVワクチン会社の資金援助による諸論文だけを証拠として、これからも女子中高生の健康被害を否定するのですか。

上君の言う「証明されていたワクチンの有効性と安全性」について

 HPVワクチンが女子中高生に接種された後に、深刻な健康被害が発生していることの理由について、イスラエルや日本の患者を診察している医師らは仮説を提唱してます。
 免疫反応を増強するためのアジュバントが副反応の原因との仮説。
 上君が取り上げたHPVVについての論文は、HPVワクチン(アジュバントを含む)と
別のワクチン(アジュバンとを含む)でした。そもそもHPVワクチンに安全性試験で
極めてしばしば言及される治験は、HPVVとアジュバントだけの接種との比較対照試験。
アジュバントが原因との仮説からすると、そんな治験に意味がないのです。
そもそも、その治験における自己免疫疾患の発病が異常に高いことは、厚労省
参照している文献からしても明白。
 イスラエルの医師はHPVVによる健康被害アジュバントによるものだとの仮説を
提唱してます。ASIA(autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvant)。
 HPVワクチンによる健康被害は、アジュバントによるとの仮説が諸国に
広まってます。もしも、HPVワクチンの「安全性」をテストするならば、
同ワクチンの対照として生理食塩水等を用いる必要があるのです。そんなことは
されてません。
 上君の主張は、「権威」筋の申し立てのみが根拠ではないですか。あなた自身が患者を診療してないことを非難はしませんが、患者を診ないで、文献だけから判定して、患者と家族の社会運動を批判することを私は「非難」します。
 あなたが自らを科学者の一員とみなすなら、自ら観察した事象に関してだけ仮説を提唱するに止めるべきできはないでしょうか。観察してないならば、患者とその家族について、医師としての倫理に反するような言動は控えるできではないでしょうか。
 上先生、3/31の女性セブンの記事において、澤田石(私)は上君は医師法の倫理規定を侵害しているとのごとき意見を述べてます。4/7発売の週刊文春の記事は上先生を厳しく非難してます。事実の重みはこれほどなのです。上先生、ワンチン製造・販売企業からの直接・間接の資金援助があると私は疑ってます。そんなことはなく、上君は収集した情報だけでpostHPVV患者とその家族について、医者としての倫理に反するような言動を展開しているのかも知れません。どちらなのか、私は断言できません。事実の重みがあります。諸国において、同様の症候群が存在してます。
 あなたがpostHPVV症候群を否定することは、沢山の患者さんを診療することなくしてはできないのです。「権威」を持ち出しての主張に説得力はありません。上君は、「現場からの医療改革」を提唱してきました。現場、現実を観察して欲しい。あなたの原点に回帰して欲しい。
 
 以上、上君の言説についていろいろと。この文章は途中。土日は山スキーなので、来週上君の残りの主張について解説することにします。