医療関係者は行政手続法を知るべし --医療崩壊の加速度を抑制するために--

澤田石 順と申します。( jsawa@attglobal.net : please mail me!)
 ブログというものは実はかなり嫌いな形式です。Wikiでと最初は考えてましたが、一度はブログもいいと考え直して、こんなことをしています。これが初回の記事となります。

 挨拶はこれくらいにします。
 本日の話題の中心課題は医療崩壊の加速度を減じるために、何ができるか。何を武器とすべきかです。
 医療崩壊ということを現実に感じたり、その現場にある方々の多数が見ていらっしゃるのは次のところではないでしょうか。

 医療の現場にある方々の圧倒的多数は、特に医師はどのブログを読んでも共感するところが大なのではないでしょうか。私は上記の三つの web page をできるだけ週に一度以上は読んでおりまして、ますます医療崩壊の加速度が増大していることを実感しております。
本田宏先生のブログへの投稿記事を少々改変して、私の意見を述べていきます。


 自分は、私人が官僚の恣意を抑制するためには武器となる法律が絶対に必要という信念を有してましたので、行政手続法が国会を通過した時に素直に喜びました。
 実は、私、学生時代から自由主義思想に染まっておりまして、日本国における行政指導というものに対して非常な嫌悪感を覚えておりました。官僚の恣意というものがとほうもなく大きいのがこの日本国。少なくとも「先進国」の中で、これほど行政指導というものが実効的な国家はないと思います。自由主義を言い換えますと、法の支配であります。政令による支配、行政指導(通知、通達という行政府の単なる「見解」)による支配、個人の恣意による支配は、自由と民主主義という我が国や「先進国」の基本原理に対立します。しかしながら、現在においても我が国においては、特に中央政府の行政組織による「通達」、「通知」という行政指導の害悪は甚だしいものがあります。
 法律によらない「中央政府」の「指導」に私人が従わない場合に不利益処分を受けることが現実にあるから、私人(例えば、諸病院、医師個人)は、厚労省の「通達」があたかも法律であるごとく粛々と従ってきました。
 官僚の恣意による「不利益処分」の行使に対抗するための法律が行政手続法なのです。このような法律の存在は医療人の間ではほとんど知られておりません。民間企業の経営者ですら、あまり知らないことが政府の調査により判明しております。

/**行政手続法より引用開始**/
(行政指導の一般原則)
32条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
(申請に関連する行政指導)
第33条 申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。
/**引用終了**/

 例えば、内診問題についての厚労省の通達は行政指導であり、それ自体が私人を強制あるいは禁止する効力を法的に持ちません。看護師による内診問題に関しては、行政手続法の活用は実効的だと私は考えております。特に、産婦人科の先生方、Googleで行政手続法をキーとして検索してみてください。

行政手続法ができてもう十年以上にもなりますが、中央官庁はその存在を市民に知らせる努力をほとんどしてこなかったのではなかったのでしょうか。官僚にとって行政手続法は仕事をやりにくくするからです。面白いことに、行政手続法の所轄轄官庁の総務省は運用に関しての調査毎年実施して報告書公開してきました。どの報告書をみてもわかるには、各省庁はその存在を知らせる努力をあまりしてないということ。

 特に、産婦人科の先生方に呼び掛けます。
堂々とマスコミに対して記者会見して下さい。次のようにするのがよいかと考えます。

1) 行政手続法について法律家と十分に話合う: 「看護師による内診」が現実に医療において如何に必須なことか理解していただくことができたらば、それを禁じる通達は単なる行政府の解釈であり、法律でないから、通知(通達)という行政指導に違反したから処分されることはそれ自体不法であることを確認

2) 全新聞やテレビ局に記者会見の趣旨と日時を発表する

3) 記者会見:「●×病院では厚労省の通知が患者さんの不利益になると確信します。不利益になる証拠をもっています。証拠はこれこれの文献です。したがいまして、厚労省の通知を当院は無視します。通知を順守すると当院では分娩を中止する他ありません。中止により△人の妊婦さんが他院で分娩せざるをえなくなります。当院の外来に通院している妊婦さんの一人一人にどうかインタビューして下さい。これまで内診を実行してた、看護師の方々にも自由にインタビューして下さい。繰り返しますが、当院は、厚労省の通知を無視する判断をしました。全国の産科医師に無視することを呼び掛けるものです。なお、無視する根拠は妊婦さんの利益を侵害しないためということだけではなく、平成五年に公布された行政手続法です。法律ではない行政指導に従わないことによる不利益処分は不法だからです。」


 「看護師による内診」問題に限らず、現実の医療行為の様々の場面において、厚労省の「通達」という単なる「見解」や、医師による異状死の届け出で義務などに関する厚労省等の見解に関して、行政手続法は有用な武器になると私は思います。医療崩壊の加速度を減じるために、医師のマンパワーを増大することは長期的に有効で必須の手段ですが、時間がかかります。もっと速やかにできることがあると思うのです。日本医師会、日本産婦人科学会、日本産婦人科医会等の団体、あるいはたった一人の医師個人が行政手続法というものを研究し、弁護士などの法律家に相談した上で、行政手続法を日本国の医療崩壊の加速度を減じるために活用(厚労省による単なる「見解」の無効性を明らかにしたり、不利益処分の取り消しをしたり)していくことを提唱いたします。

以下、参考 URLです。
▼行政手続法 平成5・11・12・法律 88号
http://www.houko.com/00/01/H05/088.HTM

Wikipedia の行政手続法についての解説
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%8C%E6%94%BF%E6%89%8B%E7%B6%9A%E6%B3%95

行政不服審査法 昭和37・9・15・法律160号
http://www.houko.com/00/01/S37/160.HTM

▼行政手続法の施行及び運用に関する 行政評価・監視結果に基づく勧告
平成16年12月総務省
http://www.fdma.go.jp/html/data/tuchi1703/pdf/170330ki64-b.pdf
/*** 引用開始 ***/
(ア)行政指導の相手方である事業者等において、行政指導への対応が任意の協力によるものであることを承知しておらず、あるいは承知していても、当該行政指導に従わなければ許認可等が受けられないと思い、納得できないまま従ったとするものがある。(国の行政機関:1事例、 地方公共団体:4事例) また、総務省のアンケート調査の結果では、373人による回答中、行政指導への対応が任意のものであることを知らなかった者が 254人(68.1%)となっている。また、行政指導を受けたことがある者(70人)のうち、納得できないまま行政指導に従った経験のある者が 42人(60.0%)で、このうち、「行政指導には当然従うものと思っていたから」とする者が26人(61.9%)「従わないことによる行政機関との、関係悪化をおそれたから」とする者が13人(31.0%)となっており、中には、行政機関に従わない旨を申し出たが、「従うことを強制された」とする者2人(4.8%)や「従うよう執拗に求められた」とする者5人(11.9%)がいる。

(イ)行政機関においては、「行政指導であることを相手方に伝えると、1 相手方は当該指導への対応を任意のものととらえ、従わない場合があり、行政目的を達成することができない」として、相手方に当該行為が行政指導であることを伝えずに行政指導を行っているもので、事業者等に支障が生じたものがみられた(地方公共団体:1事例)。また、2 行政指導により当該申請に係る関係者の同意書の提出を求め、当該同意書の提出がない場合には申請自体を受理しないとし、申請に対する審査及び応答義務を定めた行政手続法第7条の趣旨に反するおそれ のあるものもみられた。 (地方公共団体:1事例)
/*** 引用終了 ***/

▼―官製市場の民間開放による「民主導の経済社会の実現」―
平成16年8月3日 規制改革・民間開放推進会議
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/kentoukai/4kai/13.pdf
/***引用開始***/
【具体的施策:平成16年中に措置】
医療分野における株式会社等の参入により、医療法人が、いわば家族経営から脱し、民主的な手続に基づく透明性の高い経営、個々の法人をまたがるグループ経営、規模の経済性の追求、さらには資金調達の多様化・円滑化等を通じ経営の近代化を進められるようにするため、早急に以下の措置を講ずべきである。その際、下記の規制はいずれも法令に根拠を置くものではなく、事業者に対して法的には何ら拘束力がないことを、厚生労働省も含め早急に認識し、政府全体として、その旨を周知徹底すべきである。通達は、いわゆる行政指導であって、行政指導にはそれ固有では私人に義務を賦課し、又は権利を制限する効果は存在しないことは、行政手続法においても前提とされているところである。当会議としては、医療法人への出資や議決権に関する以下の通達に拘束される理由は一切存在しないと考える。
 ア 現在、株式会社については、医療法人に出資することはできるものの、社員にはなれないとされているが、これに社員としての地位を与え、社員総会における議決 権を取得することを容認する。 厚生労働省が反対の根拠として提示している「株式会社は、医療法人に出資は可能であるが、それに伴っての社員としての社員総会における議決権を取得すること や役員として医療法人の経営に参画することはできない」旨の見解(平成3年1月17日指第1号 東京弁護士会会長宛 厚生省健康政策局指導課長回答)には、法的根拠はない。
/***引用終了***/