医師不足問題

 保険医療が崩壊しつつあることを、少なくとも全国の医師の大多数が自明の事実として認識していると思われます。一般市民の安全に対する過度の要求がますます強まり、結果が悪いと医師個人の罪をなすりつける傾向はとどまるところを知りません。急性期病院の医師の大多数が、当直の時に32時間以上の連続勤務をしているというただ一つの証拠で、医師が不足していることを証明できると思います。

保険医療の運営責任は厚労省にだけあるのでしょうか。
医師数の決定は実定法の制定でなされるのではなく、行政の政策として実行されるので、厚労省にのみ責任があるように見えなくはないのですが、厚労省の予算案は大蔵省により調整され、最終的には国会で承認されて効力を持ちます。つまり、厚労省の政策の承認は議会が行っています。責任は立法府にもあるのです。
 残念ながら国会議員(ないし政党)が医師数の絶対的な不足を訴えて、予算案の修正を求めたことはないようです。国会議員は市民の要求を代弁する立場に有ります。ところが国会議員に対して医師の増員を求める強力な運動はこれまでなされて来なかったと思います。つまり、市民の側にも責任があるのです。市民にこそ責任があると言う事もできます。一般市民は医師のマンパワー不足のことをほとんど知りません。市民の大多数は医者が忙しいことは知ってますが、高給取りだから、医者だから当然とみなしています。

司法による解決

 憲法を基準として、ある法律や政策自体の不法(違法)性を問う事はできません。しかし、ある法律や政策により被害を受けた市民は法律や政策の不法性を訴えることができます。このことを、私は医療制度研究会(2007/4/21)に参加している時に突然思い付きました。
 a) から e) の仮定は真ではないでしょうか。

 a)労働基準法に違反した医師の勤務体制を厚労省は事実上放置してきた
 b)労働基準法に違反した医師の勤務体制について厚労省は通達という行政指導で
  病院に是正を求めたのは事実であるか改善は認められない
 c)厚労省労働基準法に違反した医師の勤務実態が医師の絶対数不足にあるという
  明白な事実を黙殺してきた
 d)厚労省には労働基準法違反が常態でなくなるためには、医師を何人にしたら
  いいかを算出し、医学部の定員を増やす義務を怠った
 e)a〜dに関しては、厚労省のみか立法府にも怠慢の罪がある

 以上の仮定を真とみなし、医師不足により被害を受けた一人か二人以上の市民が提訴することは可能だと思います。次のような方々に提訴することを提案いたします。

▽医師の過労死が公式に認定された遺族
 どの病院も医師の不足に直面した時に、大学に派遣を要請したり、医師の雑誌で募集したりしますが、そもそも医師の絶対数が不足しているためになかなか医師は来てくれません。特に産科、小児科、麻酔科などはそうです。過労による死亡が労災と公的に認定された医師の遺族の圧倒的多数は、病院が過酷な勤務を放置したとみなしていると思います。遺族の中には、病院に対して損害賠償を請求する民事訴訟をおこしている方もおります。民事訴訟に訴えることはまったく当然のことで、もっともっと増加するべきだと思います。しかしながら、医師の過労死に関して、病院の責任はごく小さく、真実は中央政府の怠慢が過労死の主たる原因だと思います。
 すなわち、過労死と認定された医師の遺族は中央政府に対しても損害賠償を請求するべきだと考えるものです。ハンセン病訴訟で、熊本地裁が国と行政の不作為責任を認める判決を出したのは記憶に新しいことです。
 櫻井 よし子さんのブログ(http://blog.yoshiko-sakurai.jp/2001/07/post_69.html)
より.
/** 引用開始 **/
中坊: 1987年に水俣病患者がチッソと国を相手に起こした訴訟の判決で、熊本地裁は行政の責任を認めましたが、判決理由の中で、行政の不作為を認めるための物差しを示した。それが非常に厳しいのです。1つには、生命や身体に重大な被害が発生していること。2つ目には行政がやれば容易にできることであり、逆に行政がやらない限り救えないこと。さらに、行政に対して被害者がそれを求めていたこと。今度のハンセン病訴訟でもそうですが、被害者がその以前に行動を起こしていなければいけないというんです。

行政の不作為を違法だと断定するには、かように厳しい条件を課す。なぜそこまで行政を守ってやらなければいけないのかと思うくらい、日本の裁判所は行政判断を覆すことに対して消極的なんです。そういう雰囲気の中で行政が野放しになっていた。

行政訴訟の多くはいまだに門前払い

/** 引用終了 **/

▽過労によるうつ病と診断された医師
 死亡しないと労災とは認定されないのかも知れません。うつ病自体をを労災として認定せよと労働基準監督署に求めることと同時に、過労の原因が厚労省および立法府の怠慢(医師数の確保を怠った)にあるとして、提訴することはできないものでしょうか。

国会議員への要求

 上記の a) 〜 e) の仮定を真とみなして、地元選出の衆議院議員の全員に手紙やメールを送る事を提唱します。あるいはそれらの仮定がの真偽を研究することを要求する手紙やメールを送る事。署名という形でもいいでしょう。
 あなたが病院勤務の医師だとしたら要求の内容を記した文章に、同僚の医師の署名を求めるのも良い方法だと思います。日本医師会とか産婦人科学会など全国規模の組織はそれなりにやっていますが、全国規模の団体は直接厚労省に要望したり、政党自体に要求するためにあまり効果が得られないと思われます。地元選出の衆議院議員であれば、得票ということに敏感なので、要求書の数(署名の総数)がある程度以上になれば、それなりに対応する確率が高まると思います。